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大切な友人を救うためにコスパ人間が奔走する… 〜「君死にたもう流星群」〜

タイトル:君死にたもう流星群

作者:松山剛

イラスト:珈琲貴族

君死にたもう流星群 (MF文庫J)

君死にたもう流星群 (MF文庫J)

 
君死にたもう流星群 (MF文庫J)

君死にたもう流星群 (MF文庫J)

  • 作者:松山 剛
  • 発売日: 2018/05/25
  • メディア: 文庫
 

緊急事態宣言が続いているため、贔屓にしている書店になかなか通えず本をオンラインで注文している状況

なるべく僕は手数料を払いたくない人間なので作品を購入する際に、面白そうな作品がないか探すのですが、そのなかで個人的に興味深かったのが「君死にたもう流星群」

MF文庫がプッシュしている作品の1つでもあります

  • コスパ人間の目の前に現れたものは…?

主人公の平野大地は親が残した遺産を宛に仕事もせずに昼からスマホゲームに没頭する語弊を恐れずに言えばクズ人間です

ただ彼も最初からこうなりたかった訳ではありません

昔からコスパばかり重視して最小限の力で勉学や就活も乗り切ってきたのにこうなってしまったのです

 

そんな彼にとって忘れられないのが3年前に起こった「流星群」

この「流星群」とは人工衛星が次々と墜落した事件なのですが、この事件には1人犠牲者が

その犠牲者は天野河星乃

宇宙飛行士の両親を持つ少女でかつて「スペースベイビー」とも呼ばれたのですが、両親が亡くなってからは引きこもりに

それを大地が少しずつ支えて宇宙飛行士になる夢を叶えたものも流星群の偽善者になってしまった

彼女の努力を間近で見ていた大地は星乃を馬鹿にされることだけは許せなかったのですが、同時に死を受け入れられてないというのも

かつての同級生である盛田伊万里に誘われた同窓会で暴れてしまうのはよろしくないことですが、知人を馬鹿にされたら僕だってこうしてしまうかもしれない

僕も昔友人を勝手に「故人」扱いされたことありますから…

 

しかしお金は有限ではないという事で遺産もいよいよ底をつく

夢を叶えた伊万里(デザイナー)、友人の山科涼介(医者)、亡くなった星乃(宇宙飛行士)とは対照的な大地

ただ付き合いの長い或井真理亜或井葉月に星乃からの「遺言」を聞き、彼女の自宅の遺品整理を始めてる最中、信じられないことに星乃からメールが届くのです…

  • 過去の星乃とスペースライター

星乃からのメールを開封しそのメールの指示に従って星乃が愛用していたPCを起動するとなんと画面には星乃が…

面白いのがこの星乃、3年前の「流星群」で失くなる直前の彼女だということ

過去と現代がこんなにも密接するシーンは映画でもないのではないでしょうか

 

もちろん大地は星乃を救おうとしますが星乃はあらゆる手段を尽くした後

その上で、星乃が突き付けるのは

 

「大地くんには夢が足りない」

 

ということ

その後、星乃の死の瞬間が訪れるのですが彼が見つけたのは「スペースライター」という機械

要は星乃はタイムマシーンを作っていたのです

大地が後悔してやり直したいと思ったときのために

 

そうなると大地は当然タイムマシーンを探すために躍起になりますが、簡単に見つかるわけもないしアパートは取り壊しが決まってる

おまけに真理亜や葉月も現実を見るように言うんですが思わぬところにタイムマシーンを見つけて…!!

 

このタイムマシーンの場所には驚くと思います

  • 微妙に異なっていく過去

スペースライターによってタイムスリップした大地は星乃の運命を変えるために奔走することに

とはいっても過去に戻るということは人間関係がリセットされることを意味する

つまり星乃は引きこもり

なので思うように星乃との関係を良好に持っていけず大地は苦労するわけです

 

同時に大地にはある現象が

それは分岐点と思われる出来事が発生する度に血の涙が発生するようになるのです

 

これによって伊万里は本来学生時代に足を失う事故に巻き込まれるはずが大地によって回避されたり、本来訪れる予定だったISS(国際宇宙ステーション)展ではなく「星空のアーティスト展」に行ってたり

更には網膜アプリなるものが存在していたり…

 

要するに大地の行動は過去を少しずつ変えてしまってるのです

他者の運命を変えるとはそういうことなのでしょう

そのうえ、本来星乃と接近するはずだった出来事まで消えてしまい…

  • ネットが生み出す憎悪

そしてこの巻で最も重要な要素は「エウロバ」

星乃の両親が亡くなっていることでは前述した通りですが、父親弥彦流一が亡くなった原因は真理亜のミスによるもの

加えて流一は真理亜と関わりが深かった

星乃は序盤から真理亜を嫌っている描写が目立つのは、「自分の父を真理亜が奪おうとしている…」と誤解したのが原因だったのかもしれません

真理亜は流一を自分のミスで亡くしてしまったことを悔やんでます…

 

しかし本当の問題は「エウロバ事件」

この「エウロバ事件」とは、ハンドルネームでエウロバと名乗るものが星乃の母親で亡くなった天野河詩緒梨を入院中に「悪」と見立て殺害する予告を出したのです

幸い、殺害は未然に防がれたもの一度独り歩きした情報は簡単に消えない

 

今のネット社会もそうですが、こうしたゴシップ情報が流れ出すと必ずと言っていいほど愉快犯が発生する

更にPVを稼ぐためにあることないことをでっち上げるまとめサイト

それを本人や関係者が見たら傷付きますよね?

星乃はネットを通してそうした心ないページを読んでしまった

人間不信になって引きこもりになるのも必然でしょう…

ある意味これって現代社会の闇そのものでもあります

 

しかも恐ろしいのがこういった「自称正義」って模倣犯を生みかねないこと

実際終盤、真理亜の講演会で真理亜を徹底的に口撃していた星乃はこの模倣犯に命を狙われてしまう

大地の決死の覚悟や涼介、伊万里の援護、そして真理亜の行動もあってなんとか大事には至りませんでしたが、ネット社会の恐ろしさがこの巻終盤ににじみ出ています

「自粛警察」もこれとほぼ同類だよね…

 

ただ、この事件をきっかけにようやく星乃と真理亜は仲直り

その上で星乃と大地も新しい未来へ歩いていくのです

 

この作品、簡単に言えば「夢」をテーマにしたタイムリープもの

タイムリープといえば同じMF文庫から「ぼくたちのリメイク」が刊行されてますね

ただ、「ぼくたちのリメイク」はキラキラとしたものがあるのに対し、こちらの作品はそんなものほぼ皆無

何がなんでも星乃を救うために大地は奔走していくことになるんでしょうね

 

更に「ぼくたちのリメイク」と異なるのは他者との干渉の結果

恭也は偶然タイムリープが起こって自分がやりたいことを見つけるために裏技を使いつつも未来に影響を及ぼさないよう配慮するため、未来にそこまで悪影響は及ぼさない

しかし大地は「コスパが悪いことを嫌う」癖に過去に起こった悲劇を防ぐために身体を張る

これって歴史を大きく改編させかねない行動です

 

例えば、

1.Aさんが失敗→分析や反省から成功

2.Bさんの危機をCさんが救う→2人はやがて家族に…

といった具合で人生はあらゆる事柄が未来に影響する

悲劇が後の成長に繋がったり、周囲の人間を変化させたりとプラスにもマイナスにも作用します

 

でも大地が起こしている行動はそれを破壊しかねないもの

実際、伊万里を交通事故から救ったことで涼介と結ばれる未来が消えてしまった可能性もあるのです

これが後々どう影響を及ぼすか…

 

更に大地はまだ何も変わってない

この物語は大地がコスパ重視の考えから脱却してからが物語の始まりだと思います

つまりこれはまだ序章でしょう

 

そして、「網膜アプリ」を制作していたジュピター社、突如

 

「君の人生にレビュー出来るのは君だけ」

 

と大地に告げた少女の正体は…

 

タイムリープものの中でもこの作品は特にシリアス

生きづらい毎日を送っている方にこそ呼んで欲しい作品です